2008/11/10

打弦楽器の名称

 打弦楽器とは文字どおり、弦を打つことで音を出す楽器です。発祥は西アジアからインドで、それがヨーロッパに渡り、さらに東洋へ、北アメリカへと伝えられ、各地で固有の構造と名称を持つようになりました。日本にも何度か伝来はしたものの定着することはなく、日本固有の打弦楽器はありません。そのため日本では、弦をバチで打つ楽器を「打弦楽器」と総称し、特に台形の台におおむね100本以上の弦が張られている楽器をダルシマー類と称しています。
 なお、ピアノやクラヴィコードはフェルトハンマーやタンジェントが弦を打つことによって音を発しますが、打弦楽器ではなく鍵盤楽器に分類されています。

 では、打弦楽器のさまざまな名称をご紹介しましょう。


英語:ダルシマー dulcimer
アメリカの場合はハンマー・ダルシマー hammered dulcimer。
ギリシア語・ラテン語で「甘い響き」を意味するドゥルチェ・メロスdulce melosに由来。

■ ペルシア語:サントゥールsantoor、santūr
「100の弦」という意味。ほかにサントゥーリ santuri、 サンティール santir など。

■サンスクリット語:シャタ・タントゥリー・ヴィーナー
「100の弦の琴」という意味。楽器分類はサントゥールと同じ。

■ 中国語:揚琴または楊琴  ヤンチンyángqín
韓国では揚琴 ヤングムyanggum、モンゴルでヨーチンyoochin、タイでキム Kim。
中国に洋琴yángqínとして伝わったことに由来 。

■ ハンガリー語:ツィンバロム cimbalom
スラブ語系で他にはツィンバリ tsimbalï など。kimbalomn に由来 する。

■ フランス語:タンパノン tympanon

■ ドイツ語:ハックブレットHackbrett
「まな板」の意味。
ここから派生した名称はハックブレーデ hackbräde(スウェーデン語)、ハッケブレートhakkebrett(デンマーク語)、ハッケボルトhakkebord(フラマン語)、ハッハブラットHachbratt(スイス・ドイツ語)など。


※ ツィター族の中で弦をはじく楽器をラテン語でプサルテリウム psalterium というが、これに関係する言葉ではイタリア語にサルテリオ・テデスコ salterio tedesco (ドイツのサルテリオ)がある。

※ パンタレオン(パンタロン):Pantaleon Hebenstreit(c.1667-1750)が開発した楽器で、1697年にはすでに実在したらしい。1705年にその演奏に感動したルイ14世によりPantaleonと命名されたが、奏者であったヘーベンシュトライトが、製作を請け負ったゴットフリート・ジルバーマンに複製を禁じたため詳細がわからなくなってしまった特殊な打弦楽器。その後、ジルバーマンは自分の専門(オルガン)であった鍵盤楽器製作の技術を生かし、18世紀におけるドイツのピアノ製作者の先駆けとなった。ジルバーマンのピアノ試作品を晩年のJ.S.バッハが試奏したのは有名な話。

※ハンガリーのツィンバロムCimbalomのカタカナ表記について。
ツィンバロン、チンバロンとも書かれることがありますが、日本打弦楽器協会では「ツィンバロム」という表記を推奨しています。